長い目で見て、怪我や痛みに悩まされることなく、疲労を溜めにくい身体作りをするためには、
「日常生活やトレーニング時における、すべての動作(運動)において、主動筋、協力筋、固定筋、拮抗筋がバランスよく適切に働いている」必要があります。
このバランスが崩れてくると、怪我をするor過緊張や痛みに悩まされる→かばう→更にバランスが悪くなる→他の部位の調子まで悪くなる、なんていう負のスパイラルに陥りやすくなります。
結論から、先に書いてしまうと
@現在自分がどのような身体の状態で、どのような身体の使い方をしていて、どの部位がどういう状況にあるかを知ること。
Aそして、それらを正確に評価した上で、適切な対策を立てて、実行すること。
以上です。
もう少し具体的には
@代償動作の仕組みを知る。
●代償の定義: 生体が運動機能の不全を代償しようとして、本来のメカニズムとは異なった方法で行われる運動。
例えば、
・前鋸筋が弱くなる→小胸筋による代償
・僧帽筋上部が弱くなる→菱形筋や頚、体幹の側屈による代償
・大胸筋鎖骨部と胸肋部が弱くなる→体幹の回旋筋、肩甲帯周囲筋群による代償
・肩甲下筋や広背筋が弱くなる→三角筋や体幹の回旋筋、三頭筋による代償
・三角筋後部が弱くなる→上腕二頭筋による代償
・三頭筋が弱くなる→前腕の重力を利用して代償
・内、外腹斜筋が弱くなる→大胸筋による代償
・中臀筋が弱くなる→体幹側屈筋、股関節屈筋による代償
・大腰筋、腸骨筋が弱くなる→縫工筋、大腿筋膜張筋による代償
・腓腹筋が弱くなる→長母趾屈筋、長趾屈筋、長腓骨筋、短腓骨筋による代償
などがあります。
*参考 『体表解剖と代償運動』 医歯薬出版株式会社 より
漢字だらけでややこしくなってしまいましたが、ザックリ見てみると、アウターの大きな筋肉がしっかり使えていないと、インナーや小さい筋肉に過重労働させてしまうイメージです。
理解して代償させているのであれば良いのですが(そもそも代償動作に良い悪いの意味はない。むしろ人間が本来持つ必要な適応能力の1つ。)、代償が5個、10個、20個と重なってくると、自分の意思で力を抜きたくても抜けなくなり、その結果、思うように身体をコントロールできなくなってしまいます。
こんな感じで代償に代償を重ねて、身体が訳分からない状態になってしまうと戻すのが相当やっかいになります(何本もの糸をあらゆる方向からぐちゃぐちゃに絡めて、それを一つ一つ解かなくては、元の状態に戻らないイメージ)。
戻さないとコントールが利かない状態が悪化し、全身を怪我予備群にしてしまうだけですし、とにかく辛いです。
A筋のファイアリングパターン(筋の発火パターン)を知る。
代償動作の流れですが、
●筋のファイアリングパターンとは: 関節の動きをもっとも効率的に行うための主動筋と協力筋の一連の筋収縮のこと。
よくあるファイアリングパターンの機能障害は
・協力筋支配(synergistic dominance): 協力筋が主動筋にかわって主となり、動きを生み出すこと。
例えば、大殿筋が弱い→協力筋(大腿筋膜張筋、内転筋群、腰方形筋)がその弱さを補うため強くなる→正常な関節のアラインメントが崩れる→関節周辺の筋の正常な長さ-張力関係を更に変えていく。
・拮抗抑制(antagonist inhibition): 硬くなった筋が拮抗筋に対して、神経を刺激しにくくなるため拮抗筋の活動が減ること。
例えば、大腰筋が硬くなると、その反対側の大殿筋の動きが抑制される。
などがあります。
*参考 『Sports & Exercise Massage 2nd Edition -Comprehensive Care for Athletics, Fitness, & Rehabilitation』 Sandy Fritz著 より
ひとつの部位の関係性が崩れると、全身にその影響が波及していきます。一箇所崩れれば、全部おかしくなると言ってもよいぐらいです。
Bどうするか。
*「身体の状態を正確に評価する」:
何気にこの部分が一番難しいので、自分自身で客観的に姿勢や動きを確認できない場合は友人やトレーナーに動きを見てもらっても良いですし、撮影可能な場所であれば、撮影して、動作解析してみるのも良いと思います。この評価を間違ってしまうと、その後の対策やプログラムもすべて間違ったものになります。
*「適切な対策を立てる」:
・短縮して短くなっている筋肉→ストレッチ、マッサージ
・伸張して弱くなっている筋肉→負荷をかけて収縮させる
・連動性が損なわれている場合→意識、イメージできるところまで負荷を落とす。基本的に、正常な動きでは、活動するのは主動筋→固定筋→協力筋の順番です。
容易なものであれば、ある程度調整すれば解決すると思いますが、
身体の一連の流れには
・骨、関節、靭帯、腱などに問題がある場合
・内臓から筋肉に影響を与えている場合(内臓体性反射)
・骨格的な問題(自分自身の骨格に合わない種目や可動域で運動をやり込んで身体に負担をかける、など)
・血液循環の状態
・栄養的な影響
などもありますので、調整してもなかなか身体のコントロールが利かない、対象部位に効かないという方は、専門の方に当たってみてください。