・末梢性疲労の原因として、エネルギー源となるATPの供給不全、乳酸や水素イオンのような物質の蓄積が主な原因と考えられている。
B.興奮収縮連関不全
・筋運動により生じる水素イオンは、解糖系の中間代謝物質である乳酸から大量に遊離される。これは
・解糖系の鍵酵素、PFK(ホスホフククトキナーゼ)活性の抑制を通じて、グルコース6リン酸→フルクトース1,6-二リン酸代謝を抑制する。
・筋原繊維においては興奮ー収縮関連のT管系→筋小胞体(SR)の伝達機構の阻害することで筋疲労を惹起する。
・マグネシウムイオン、乳酸、水素イオンは筋小胞体からカルシウムイオン放出や取り込み(カルシウムイオン-ATPアーゼ抑制による)を抑制することにより、T管系→筋小胞体の伝達を抑制する。
・ATP代謝産物のADPや筋温の増加などがカルシウムイオン-ATPアーゼの活性を低下させ、筋小胞体のカルシウムの取り込み機構を阻害することで筋疲労を惹起する。
C. 疲労性抑制反射
・Biglandらは、疲労した筋がそれを支配する脊髄運動神経活動を反射的に抑制する疲労性抑制反射を確認した。
虚血により増加する種々の代謝産物や炎症ならびに血管拡張関連因子(プロスタグランジン類、ブラジキニン、NOなど)などが筋のポリモーダル受容器を興奮させ、グループIII,IVなどの求心性知覚神経を介して脊髄の運動神経を抑制していると考えられる。
・日常な運動の多くはβ作動性の血管収縮より、血管拡張因子の効果が優位となり、筋血流は増加するので鬱血は起こりにくい。矛盾するようだが、適度な運動が肩こり予防や改善に良いのはこのためである。
■中枢性疲労
・Newsholmらは、血中濃度が運動により増加し脳内にも移行し、脳のセロトニン代謝が一過性に増強して疲労感が高まると主張した。
・運動時には筋でのATP消費が高まり、プリンヌクレオチド回路を介して血中アンモニア(NH3)やアンモニウムイオン(NH4+)などが乳酸異常に増加する。アンモニアはATP分解により生成したAMPがAMP脱アミノ酵素によりIMP(イノシン一リン酸)を生じる過程で作られる。
・Banisterらは運動性高アンモニア血症は末梢または中枢の運動性疲労に関与すると述べている。
アンモニアは
・末梢ではエネルギー不足の原因(ATP低下、乳酸の増加)ともなり
・中枢では神経の代謝や興奮性を阻害し、運動失調や不活動を招く。
・また細胞膜を過分極させ、解凍系の鍵酵素(PFK)を活性化し、ミトコンドリアの酸化的リン酸化によるATP生成を抑制する。これは乳酸生成を促し、水素イオン濃度を高め、アンモニア生成に拍車をかける。
■うつ病患者ではシナプス伝達を高めるセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が症状を改善することから、セロトニン代謝低下が原因の一つとされている。うつ病では慢性的な脳の興奮でセロトニン代謝が低下し、セロトニン感受性が逆に増大すると考えられている。
■トレーニングの適応、不適応
・高強度(90%酸素摂取水準)の自転車運動を一日30分、7週間運動を行わせると、朝9時の血中コルチゾール濃度は増加し続け、4週間でピークを迎え、6週間で元に戻った。
適応途中の4週目は特に健康管理への注意が必要である。
『疲労の科学』より