原発性骨粗鬆症は、性ホルモンの低下が主因となる病態であるが、細胞老化・性腺以外の臓器の老化など性ホルモンに依存しない要素も原因となり、骨粗鬆症の発症は生活習慣、遺伝的素因の影響も受ける。
■続発性骨粗鬆症
加齢以外に骨脆弱性をきたす特定の原因が認められる場合、続発性骨粗鬆症と呼ばれる。
発症メカニズムは、背景となる原因により様々であるが、原発性骨粗鬆症と発症メカニズムを共有するものや、非生理的なメカニズムにより発症するものが存在する。
■原発性骨粗鬆症
細胞老化、加齢による臓器機能低下、生活習慣、遺伝的素因などに起因する多因子疾患である。閉経後女性では卵巣機能低下に伴うエストロゲン分泌の減少の影響が大きい。
■性ホルモンに依存しない骨脆弱化
・酸化ストレスへの暴露は、細胞や臓器の老化の原因の一つである。活性酸素種から生体を防御する分子のうち、SOD1を欠損するマウスでは、骨芽細胞機能の低下による骨粗鬆症を呈する。
また酸化ストレスはAGEsの生成を促進し、骨組織において力学的に脆いコラーゲン架橋を形成し、骨質低下にも寄与している。前述の SOD1 欠損マウスにおいても、AGEs によるコラーゲン架橋の増加が示されている。
・一方で、エストロゲンが活性酸素除去にかかわる酵素(グルタチオン還元酵素およびチオレドキシン還元酵素)の誘導に関与していることが報告されており、酸化ストレスによる加齢メカニズムは部分的に性ホルモン依存性であると考えられる。
・加齢に伴い、腸管や腎臓の機能も低下する。腸管の老化によるビタミンDへの反応性の低下、腎臓の機能低下に伴う活性型ビタミン D 産生の低下により、腸管からのカルシウムの吸収が低下することが知られている。
これに加えて加齢に伴い腎臓からのカルシウムの再吸収も低下し、全身のカルシウムバランスが負に傾くと、副甲状腺より PTH の分泌が亢進し、骨吸収が促進される。一方で、腸管からのカルシウム吸収はエストロゲンによっても増加し、性ホルモン依存性の要素もあると考えられる。
・また腎臓の機能低下は、血中のホモシステインの増加を招く。ホモシステインは一般的な骨折の危険因子(骨密度低下など)とは独立した骨折の危険因子であることが報告されている。
骨中のコラーゲンの生理的な架橋の形成がホモシステインにより阻害されることに加え、ホモシステインは酸化ストレスを増し,AGEs による架橋によりコラーゲンを劣化させることがそのメカニズムである。
■加齢に伴う骨格筋量および筋力の低下はサルコペニアと呼ばれる。
サルコペニアは,骨粗鬆症に合併しやすく、骨格筋の老化が骨粗鬆症を促進している可能性が指摘されている。
筋肉から分泌されるサイトカイン(マイオカインと呼ばれる)の一種であるイリシンは、運動により分泌が増し,加齢により分泌が低下することが知られている。
イリシンは骨芽細胞の活性化および RANKL 発現抑制を介する骨吸収の抑制作用があり、イリシン投与はマウスの尾懸垂モデルにおいて筋量および骨量の減少を防いだ。
別のマイオカインであるミオスタチン(GDF8)は、筋分解を促進し、加齢により産生が増加する、ミオスタチンは、破骨細胞を活性化し、欠損マウスで骨量が増加することから、筋骨連関を担う候補となりうる。
■生活習慣による骨脆弱化
骨粗鬆症の原因として食事や運動などの生活習慣も重要である。
・カルシウムおよびビタミンDの摂取不足は、カルシウムバランスを負に傾かせ、PTH分泌を促進し、骨吸収亢進を招く。
・ビタミン B6、B12、葉酸の摂取不足はホモシステインの上昇を招き、骨質の低下の原因となる。
・ビタミンKの摂取不足は疫学的に骨折リスクを増加させることが示されている。
・飲酒・喫煙は骨粗鬆症のリスク因子である。アルコールは、骨形成を低下させ、骨細胞のアポトーシスを引き起こすとともに、酸化ストレスも増大させる。
・喫煙に関しては、ヒトにおける骨量低下の報告はあるが、そのメカニズムは未解明である。動物レベルでは長期によるタバコの煙の吸入によりむしろ骨量が増加するが、コラーゲン線維の異常を認め、骨質への影響が懸念される。
・運動不足は骨粗鬆症の原因となる。長期臥床の患者や宇宙飛行士の骨量が減ることが報告されており、骨量の維持には力学的な負荷が重要である。
骨組織における力学的負荷の感知は,骨細胞が担っている。骨細胞は、骨芽細胞が分化した最終形であり、骨の中の骨小腔に埋め込まれている。骨細胞は、細い突起を周囲に伸ばし、骨細胞同士や骨表面の細胞とネットワークを形成し、RANKLやスクレロスチンの発現により骨代謝を制御している。
『骨粗鬆症発症のメカニズム』より