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筋の緊張とチキソトロピー

生体内での筋の固さは結合組織などの構造的要因に加え、比較的急性に変化しうる生理学的要因によって左右されます。

生理学的に筋が固い状態にあることを総称して筋緊張(muscle tone)と呼びます。

筋緊張は大きく粘弾性的緊張と収縮性緊張に分けられます。

粘弾性的緊張は筋の電気活動(EMG)を全く伴わない受動的なスチフネス(固さ)で、測定時の伸張速度や、伸張、短縮履歴に依存して著しく変化するといわれています。

これについて人の前腕の屈筋、伸筋についての報告がいくつかあります。

手関節に正弦波状の振動(4Hz)を与えた場合、途中で大きな振動を数回与えるとスチフネスは低下し、大きな振動を与えないとスチフネスは増加しました.。長時間同じ姿勢でいたり、起床直後に体が固い(Static Fixation)のは筋のこうした特性が関与している可能性があります。

またスチフネス測定の直前に短縮&等尺性の運動を行った場合はスチフネスが高い状態で推移したのに対し、受動的ストレッチ&伸張性の運動を行った場合ではスチフネスは著しく低下しました。つまり受動的ストレッチ、伸張性の運動を行った場合に柔らなくなったということです。

静的状態のこのような特性はチキソトロピーと呼びます。

チキソトロピーとは元来ゲルの特性を表す用語であり、撹拌によってゲルが一時的に上昇し、その後放置するとまた固くなる場合に用いられます。筋のチキソトロピーに関する詳細は不明ですが、現在のところクロスブリッジの結合、解離によるものであろうと考えられています。

血管平滑筋や無脊椎動物平滑筋ではクロスブリッジが長時間結合することによりエネルギーをあまり消費することなく、張力を維持する仕組みがあり、それぞれラッチ(latch)状態、キャッチ(catch)状態と呼ばれています。詳細についてはさらなる検討が必要ですが骨格筋にも痕跡的にこれと同様の仕組みがある可能性があります。

一方、収縮性緊張とは特殊な生理的環境によって、不随意筋に緊張が高まることを指します。

極度のエネルギー欠乏状態などで筋内ADP濃度が上がるとクロスブリッジが離れにくくなります。このような現象は拘縮(contracture)、神経、筋系に持続的な興奮が続きEMGを伴う緊張が生じることを痙攣(spasm)と呼びます。

過度の伸張性筋力発揮後にはDOMSとともにスチフネス(固さ)は増大します。この場合には電気的活動(EMG)を伴うことから局所的な痙攣が起こっていると考えられます。EMGを低減させるには受動的ストレッチがありますが、これは中枢の反射が関与していると考えられます。

静止状態の筋の緊張が高すぎること(hypertonia)は可動域を狭めたり、それ自体が運動の負荷になったりしますが、緊張が低すぎること(hypotonia)も問題です。パーキンソン病の患者ではhypertoniaのために自発的振動を起こすことができず、hypotoniaの場合はその振動が止まらずに持続してしまいます。



腱のスチフネス

腱のスチフネスは運動やトレーニングによって増大し、逆に不活動によって減少します。腱のスチフネスの変化は筋繊維の太さと相関があるため、機械的ストレスの増加に対する適応と考えることが出来ます。

基本的には腱のスチフネスが増大すると(固くなると)、筋の収縮張力の伝達効率は明らかに高まるので、運動のパフォーマンスに対してもポジティブな効果を及ぼす可能性があります。

しかしながら短距離選手の筋腱複合体について超音波画像から腱組織のコンプライアンス(スチフネスの逆数)を推定すると、コンプライアンスの高い(すなわち柔らかい)選手ほど100メートル走の記録が良いという報告がなされています。

短距離などにおいては収縮時の筋のスチフネスと腱のスチフネスの微妙なバランスによって弾性エネルギーの再利用効率が高まり、「バネ」を利用した走行になりそうではない場合と比べて記録が良いのではないかと考えられています。



まとめ

粘弾性的緊張(安静時のクロスブリッジの結合)は筋を使用しない際にエネルギー消費を抑え、張力を維持するために、収縮性緊張においては体に過度のエネルギー欠乏状態、興奮状態が続いたときにその機構をセーブするために行われている体の反応(リアクション)だと考えることが出来ます。

また短距離走など筋と腱のスチフネスの微妙なバランスが競技に大きな影響を与える場合は別として筋力アップ、筋量アップなどを目的にトレーニングする場合は腱のスチフネスは増大している状態のほうが張力を発揮しやすいと考えられます。

現在の段階で言える事は、運動やトレーニングを行う際には粘弾性緊張を解いた状態(ウォームアップやストレッチを行う)でトレーニングを行うということですね。

 
 
 
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