筋損傷がどのような原因で生じたかには関係なく、変性−再生過程が引き続いて起こり、この過程で一連の炎症反応が重要な役割を果たす。筋の再生を制限する因子として筋衛星細胞(サテライトセル)の数、神経再支配、血流の回復などが挙げられる。
筋繊維が再生するには、休止期にある単核の筋芽細胞あるいは筋繊維細胞が活性化し、増殖、分化、融合して多核の筋管細胞となったあと、さらに分化し、神経支配を受け、成熟することが必要になる。
筋細胞に分化することができる細胞としてまず挙げられるのは筋衛星細胞(サテライトセル)であり、これが筋の成長や損傷からの回復の主役であると考えられることは間違いないのだが、筋細胞外の様々な細胞や損傷した筋細胞の筋核などが筋前駆細胞になる可能性も指摘されている。ラットの実験においては筋繊維や血管内皮細胞、脂肪細胞にもサテライトセル以外に多分化能をもった新しい幹細胞があることも報告されており、筋損傷−再生過程に関与している可能性が高いといえる。
サテライトセルは基底膜と細胞膜の間に位置し、通常は休止期にあるが、成長や筋損傷に伴って活性化される。
サテライトセルの活性化には免疫系の細胞やそれらが放出するサイトカインなどの因子(白血病阻止因子:LIF,IL-6、血小板由来増殖因子:PDGF、インスリン様増殖因子:IGF、繊維芽細胞増殖因子:FGF、肝細胞増殖因子:HGF、腫瘍増殖因子:TGF-β)や運動神経に由来する因子(神経伝達物質、ニュートロフィック因子)、ホルモン(テストステロン)、一酸化窒素(NO)、サテライトセル自身が分泌する因子(IGF,FGF,HGF,TGF-β)など多くの因子が関与しているがその全貌は明らかになっていない。
筋繊維の再生は高密度の結合組織の形成によって阻害される。損傷部位の固定は、組織部位の形成を抑制し、筋繊維の再生を促進するが同時に筋繊維の走行方向は必ずしも元からあった筋繊維の方向と一致しない。
損傷の程度にもよるが固定の期間を一週間以上とした場合、筋萎縮につながる事が報告されている。ラットの場合には3〜5日間固定した後には患部を動かすことによって血流確保が高まり、再生筋の走行方向が定まり、伸張力も向上し、再生、回復が促進されることが知られている。
人の場合も損傷後、ある程度の安静期間は重要であるがむしろある時期からは適度に動かしたほうがよいと考えられる。