・心身相関(mind-body correlation)とは、三省堂・大辞林によると『心理と生理との作用が相関関係にあること。心に喜びや怒りを感じれば、身体にもそれに対応する状態が現れる類』と書かれている。
これは換言すれば、心の動きは身体の状態に影響を与え、身体的変化は心の動きに影響を及ぼすことであり、内的或いは外的刺激により大脳辺縁系で引き起こされた情動が自律神経系や内分泌系や免疫系に影響を及ぼし、さまざまな身体症状を引き起こすことである。
・大脳辺縁系は、喜怒哀楽などの情動の表出、食欲、性欲、睡眠欲、意欲などの本能、神秘的な感覚、睡眠や夢を司る部位の総称であり、帯状回や扁桃体、海馬、海馬傍回、側坐核などがこれに相当する。
この中で、扁桃体は特に情動反応と情動記憶の主要な役割を有している。すなわち好悪や快不快などの感情の処理や恐怖、記憶形成、疼痛、ストレス反応、不安反応や恐怖反応において重要な役割を有している。
また、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、内臓感覚や体性感覚など外的な刺激を嗅球や脳幹から直接的に受けている。
・うつ病発症の可能性として、強い不安や恐怖など緊張感が長期的に継続すると、扁桃体の過活動によって副腎皮質から分泌される糖質コルチコイド(コルチゾール)が分泌され、大脳辺縁系は大きな影響を受け、それが長期化すると神経細胞の萎縮が発症することにより、他の神経細胞との情報伝達に影響しうつ病が発症すると考えられている。
また、疼痛やストレス下では扁桃体が興奮するが、その扁桃体の興奮を前頭前野が鎮める役割を担っている。しかし、慢性疼痛やストレスが持続する場合、扁桃体の興奮が継続し疼痛が増幅されていくことになり、最近では慢性疼痛と偏桃体の関連も指摘されている。
■情動と慢性疼痛
見たもの触れたものや五感で感じたものが、自分にとって安全であるのか或いはとても危険であるのかを瞬時に評価することは、生きて行く上で欠かせないものである。
こうした感覚刺激に対する価値判断を行うのが扁桃体である。これは、情動が個体に生じた生存を脅かす事態に対応して生じる、自動的な結果として生存可能性を高める応答であると述べられている。
一方、疼痛は国際疼痛学会で『実際の、あるいは潜在的な組織損傷に伴う、あるいはそのような損傷に関連して述べられる不快な感覚的・情動的体験』と定義されている。
情動的体験とは、扁桃体や側坐核を含む大脳辺縁系や前頭前皮質、島皮質など意識や情動や報酬系に関与する部位の相互連絡の上に成り立っている。
このため、慢性疼痛に関しても当然扁桃体の関与が考えられ、不安や怒り恐怖や抑うつ状態下で慢性疼痛は持続し増悪することとなる。そのため、扁桃体の過活動を抑制することにより慢性疼痛を軽減或いは軽快することは理に適っていると思われる。
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図1. 情動と感情と気分をそれぞれ異なった反応として位置付け、それを図で示してみた。
即ち、比較的緩やかに長く持続する気分(mood)の管状のトンネル(tube)の中で、感情(feeling)が positive な感情と negative な感情として揺れ動いており、生理的な反応である自律神経系、免疫系、内分泌系と行動的な反応である身体的変化を随伴する情動表出は伴わないものとした。
これに対して、情動(emotion)は腹内側前頭前野での感情コントロールを逸脱し、自律神経系、免疫系、内分泌系の強い生理的な反応と、情動表出を伴うものとした。
扁桃体が関与している情動の種類は、不安や怒り恐怖や抑うつなどの基本的な陰性情動と、嫉妬や困惑・罪悪感や恥辱などの高次の社会的な感情が存在するが、そのいずれの情動においても生理的な反応と、接近や回避、攻撃や表情などの行動的な反応を伴う。