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序論

サプリメント市場では脂肪燃焼を目的としたものが数えられないほど出回っています。その中でもボディビルダーやスポーツ選手が使用する有名なものに古代中国のシークレットと呼ばれるエフェドリンが挙げられます。

エフェドリンは現在オリンピックにおいて禁止薬物に指定されていますが、今回はその働きと脂肪分解の仕組みについて見ていきます。尚、この記事はブライアンヘイコック氏が書かれた記事に僕が脂肪分解についての解説を加筆したものです。スポーツを行っておられる方、健康に異常のある方(喘息などをのぞく)などはエフェドリンの使用に際して必ず医師の指示を仰ぐようにお願い致します。この記事は別にエフェドリンを推奨するものでもなんでもないのでもし使用されるのであればすべて自己責任でお願い致します。


エフェドリンは少なくとも2000年前から中国にて漢方のマハン、マオウ(麻黄)として使われてきました。エフェドリンは交感神経興奮作用、熱発生、食欲抑制の働きがあるアルカロイド(植物中に存在し、窒素を含む物質)で、平滑筋を拡張させル働きがあるため通常は喘息、気管支炎、鼻づまりの治療などに用いられます。

ではなぜスポーツ選手は脂肪燃焼のためにエフェドリンを使用するのでしょうか?

エフェドリンには先程挙げた熱発生のメカニズムだけではなくリポライシス(脂肪燃焼)への働きがあり、これらの働きが脂肪燃焼に直接関与していると考えられます。

交感神経興奮作用として、エフェドリンは交感神経系を刺激します。これはシナプス前神経終末(小頭)からノルエピネフリン(ノルアドレナリン、NA)がシナプス空間に放出されることによって行われます。ノルアドレナリンはシナプス空間に放出されると、脂肪細胞表面にあるアドレナリン作用性受容体に作用し、脂肪細胞における脂肪分解を促します。

脂肪分解のプロセス


脂肪分解は中性脂肪(トリグリセリド)がグリセロールと脂肪酸に分解されることを言います。このプロセスはホルモン感受性(HSL)と呼ばれる酵素によって行われています。

細胞膜上のβアドレナリン受容体に働くカテコールアミン(ノルアドレナリン、アドレナリン)のようなホルモンや、グルカゴン、成長ホルモン、テストステロン、甲状腺刺激ホルモンなどによって細胞膜の内表面に存在する酵素であるアデニル酸シクラーゼ(AC)が活性化されます。

そしてこのアドニル酸シクラーゼによってATPからサイクリックAMP(cAMP)と呼ばれる中間体化合物が生じます。そしてこのセカンドメッセンジャーであるcAMPがプロテインキナーゼを活性化、これにより不活性のホルモン感受性リパーゼが活性型に変えられます。

このホルモン感受性リパーゼの働きによってトリアシルグリセロール(TG、中性脂肪)から脂肪酸とジアシルグリセロールを生成→ジアシルグリセロール(DG)から脂肪酸とモノアシルグリセロールを生成→モノアシルグリセロール(MG)からグリセロールと遊離脂肪酸(FFA)に加水分解されます。

その後、遊離した脂肪酸は血中に放出され、血漿アルブミンと結合して可溶化された状態で各組織に運ばれ、重要なエネルギー源として利用されます。


+で示したものは脂肪分解に関与するもの、−で示したものは脂肪合成に関与するもの。
それぞれアデニル酸シクラーゼやホスホジエステラーゼなどの酵素に作用し、脂肪の分解および合成に影響を与える。


ステップワン

ではエフェドリンがこれらについてどのような働きがあるのかを関連付けながら見ていきましょう。まず重要なことはエフェドリンが直接アドレナリン作用性受容体に作用するわけではなく、エフェドリンがノルアドレナリンの生成に影響を与え、これによりアドレナリンの活性が増加、それが最終的に脂肪分解に作用するということです。

エフェドリンの不利点

エフェドラは非特異的アドレナリン作用薬と呼ばれ、ノルアドレナリンが放出される際、ノルアドレナリンはその受容体を選べません。

アドレナリン受容体にはαとβの二つに分けられ、α受容体(特にα2受容体)は脂肪分解の作用を抑制し、β受容体は脂肪分解を促進させます。脂肪燃焼に対する効果は、それぞれの細胞、特に脂肪細胞において、α受容体とβ受容体、この二つの受容体の比率によって決定されるといってもいいでしょう。

以下にアドレナリン受容体の種類とアドレナリン受容体が分布する組織、その作用についてまとめてみました。

受容体 組織 作用
α1 大部分の血管平滑筋 収縮
瞳孔散大筋 収縮(瞳孔散大)
立毛筋 立毛
ラット肝細胞 グリコーゲン分解
心臓 収縮力増強
α2 中枢シナプス後膜

神経伝達

血小板

凝集

神経終末(シナプス前膜)

autoreceptor

一部の血管平滑筋

収縮

脂肪細胞

脂肪分解阻害
(Giタンパク質の阻害)

β1 心臓、腎臓

収縮力と心拍数増強

β2 呼吸、子宮、血管平滑筋

弛緩促進

骨格筋

K流入促進

ヒト肝細胞

グリコーゲン分解

骨格筋、脂肪組織 脂肪分解促進
β3 脂肪細胞

脂肪分解促進

D1 平滑筋

腎血管拡大


もうひとつの不利点はその効能にあります。先程述べたようにエフェドリンは非特異的作用薬であり、特異的作用薬(β2作用薬)であるエピネフリン(マブテロール、クレンブテロール、サルブタモール、テルブタモール)などと比べてβ受容体においての効果が低くなります。

クレンブテロールなどのβ2作用薬はアドレナリン-β
2受容体に作用し、アデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMPを増加させることにより、主に気管及び気道平滑筋を弛緩させ、気管支けいれんの緩解と抗喘息作用を目的に使用される薬剤でエフェドリンに比べて半減期(体内での薬の量が半分になるまでの時間)が10倍ほどあります。クレンブテロールが34〜35時間、マブテロール20〜30時間に比べて、エフェドリンは3〜4時間。

またβ2作用薬は筋細胞に対してアナボリックな効果30,31があることでも知られています。

エフェドリンやβ作用薬などの薬剤は本来、喘息や気管支炎などの治療に用いられますが、しばしスポーツの競技能力向上のために要するスポーツ選手もいるようです。IOCでは医師の処方箋があれば、使用してもいいことになっていますが脂肪分解、興奮、筋力増強などの作用があるためにその判断は難しいところであると考えられます。

エフェドリンは非特異的アドレナリン作用薬であり、アドレナリン受容体を選ぶことが出来ませんが、α受容体においても長期的な刺激を与えると脱イオン化チロキシンを活性化させ、これがT4からT3の変換の増加を促したという研究結果もあります。
2 3

この研究ではエフェドリンを4週間投与し続けた結果、T4−T3の比率が増加しました。T3のレベルが増加するとアドレナリン、ノルアドレナリンへの感受性を高めます。ただこの実験では12週間の投与でも4週間と変わらないT4−T3の比率であったことを付け加えておきます。

また別の研究では、エフェドリンの長期使用により、β3受容体の感受性が低下することが見いだされました。β3受容体についてはまだ分かっていないことも多いのですが、エフェドリンの働きの40%はβ3受容体においてであると言われています。

ちなみにナドロールなどのβブロッカーの働きを持つ薬物はβ1、β2受容体遮断薬として働き、心拍数の低下などに用いられます。


ステップ2(エフェドリンの不利点を詳しく)

ノルアドレナリンは細胞膜上にあるアドレナリン受容体と結合し、体内で様々な働きをするのですがエフェドリンを摂取した際にはα1受容体、β1受容体にも作用するため、脂肪分解だけではなく同時に心拍数の増加、血管収縮、皮膚、腎臓、目、胃腸管などにおける血流を減少させます。

これは交感神経反応の結果であり、内臓への血流が制限される分、筋肉に流用されます。

この機能は動物であれば、獲物を捕獲したり、逃げたり、する際に機能するものです。人においては獲物を捕獲したり、逃げたりすることはあまりないと思いますが、エフェドリンなどを使用して意図的にアドレナリンを活性化させることはなくとも、交感神経の働きが活発になると同様のことが起こります。

筋細胞や脂肪細胞にはアドレナリン受容体がありますが、性差や個人差によって受容体の数、α受容体とβ受容体の比率が異なるといわれています。一般的には女性では臀部, 脚、男性では腹筋、腹斜部において、抗脂肪分解作用のあるα受容体が優勢であるといわれています。

私達のゴールは脂肪細胞において脂肪分解を促進するβ作用を働かせること、そしてα作用を抑制させること、つまり脂肪分解を促進し、脂肪合成を抑制することです。

筋細胞においてはβアドレナリンの活性は脂肪細胞において脂肪分解を促進させるセカンドメッセンジャーシステムにより、タンパク質の合成をも促進させるようです。


ステップ3(Gプロテイン)

ステップ3では脂肪細胞における脂肪の代謝の正常化に重要な役割を果たしているGプロテインについて見ていこうと思います。

ノルアドレナリンがβアドレナリン受容体に結合し、Gsプロテインが活性化されると、これに続いてアデニル酸シクラーゼが活性化されます。

一方、ノルアドレナリンがαアドレナリン受容体に結合した場合はGiプロテインが活性化され、アデニル酸シクラーゼの活性を抑制します。これにより、cAMPの働きがストップし、脂肪分解もストップします。

またGiプロテインはβアドレナリン受容体の感度の低下にも関与している可能性があります。β受容体の感度低下は異種脱感作と呼ばれます。


ステップ4(cAMPについて)

ATPは酵素(アデニル酸シクラーゼ)の働きによりcAMPと無機リン酸に変換されます。cAMPには3炭糖、5炭糖リボースと1リン酸が含まれています。これがcAMP(サイクリックAMP)と呼ばれる所以です。

無機リン酸もcAMPも長い時間その状態で留まることは出来ません。無機リン酸はATPがcAMPに変換される際に形成され、無機ピロホスファターゼによって加水分解され、二つのリン酸となります。

また(3'-5'-)cAMPはホスホジエステラーゼ(PDE). と呼ばれる酵素によって不活性にされます。PDEは3炭糖とリン酸基と結合し、5'-cAMPを作り出します。5'-cAMPは不活性であり、プロテインキナーゼAと結合せず、これによりホルモン感受性リパーゼを活性型にすることが出来ません。

これが脂肪分解における最初のフィードバック抑制のメカニズムです。その他にも脂肪分解のプロセスをストップしたり抑制したりするものがあるのですが、それらについて、そしてエフェドリンがそれらの働きを抑制するのにどのように働いているのかは次の項で見ていくとしましょう。


ステップ5〜8(脂肪分解を制御する物質)

cAMPの働きにより
プロテインキナーゼが活性化され、これにより不活性のホルモン感受性リパーゼ(HSL)が活性型に変えられます。

HSLが活性され、リン酸化されることに中性脂肪がグリセロールと脂肪酸に加水分解されるというプロセスを経るのですが、これらの脂肪酸がエネルギーとして利用されないと再エステル化されまた中性脂肪として細胞に蓄えられることになります。これらの脂肪分解、および脂肪合成の繰り返しを無益回路、空転サイクルといいます。

脂肪分解のプロセスには脂肪分解抑制のために働くものもあります。それがいまから挙げるホスホジエステラーゼ、プロスタグランジン、アデノシンなどです。

他にもインスリン、ニコチン酸、エストロゲンなどがあるのですが、ここではカフェインやエフェドリンによってその働きが希釈されると言われる上記の三つについてみていきましょう。

ホスホジエステラーゼ(PDE's)

cAMPはホルモンの活性に伴ってセカンドメッセンジャーとして機能しますが他の生物活性分子同様、その活性時間は非常に短いものです。cAMPの対象となる細胞において、ホスホジエステラーゼはcAMPを加水分解し不活性の状態にします。

カテコールアミン(エピネフリン、ノルエピネフリン)の分泌のレベルによって、cAMPが継続して生成されるかどうかが決まるのですが、これはホスホジエステラーゼの働きにより不活性にされます。しかし、PDEがない場合はcAMP(セカンドメッセンジャーシステム)は機能し続けます。

つまりPDEの働きが抑制されれば、より長く脂肪分解作用が続くということです。

●プロスタグランジン

プロスタグランジン(PG)とは、生理活性物質の一種でありアラキドン酸から生合成されます。エイコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン)の一つであり、様々な強い生理活性を持ち、プロスタグランジンとトロンボキサンを合わせてプロスタノイドと呼びます。

プロスタグランジンは、1936年に初めて精液中から分離されたことにより、当時は前立腺(prostate gland)由来であると考えられたために prostaglandin(プロスタグランジン)と名付けられました。

プロスタグランジンは人間の様々な組織や器官で認められます。

まず、ホスホリパーゼA2によって細胞質内にアラキドン酸が遊離されます。アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(COX)が作用すると、アラキドン酸カスケードに入り、プロスタグランジンG2 (PGG2)が合成され、その後プロスタグランジン又はトロンボキサン族が合成されます。

アラキドン酸にリポキシゲナーゼが作用するとロイコトリエン合成系に入り、ロイコトリエンが合成されます。PGG2からは、プロスタグランジンまたはトロンボキサンが合成されます。

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬 exアスピリン、イブプロフェン、ナプロキシンなど)はシクロオキシゲナーゼ活性を阻害し、アラキドン酸からのPGH2合成を阻害し、プロスタグランジンとトロンボキサン合成を抑制します。

脂肪細胞がノルエピネフリンのβアドレナリン作用により刺激された際、PGE2はシナプス空間に放出されます。これらのプロスタグランジンはGiプロテインの受容体を持ち、このGiプロテインの働きによりアデニル酸シクラーゼの活性を低下させ、これによりセカンドメッセンジャーである細胞におけるcAMPの濃度10は低下すると考えられます。

●アデノシン

アデノシンはアデニンとリボースからなるプリン・ヌクレオシドであり、cAMPの蓄積を抑制することで知られています。

脂肪細胞がノルエピネフリンのβアドレナリン作用により刺激された際、細胞はアデノシンを生成します。アデノシンはアデニル酸シクラーゼの活性を抑制させるGiプロテインの受容体となることによってcAMP11の蓄積を防ぎます。


エフェドリン・カフェイン・アスピリンの体重減少に対する効果

カフェインは細胞内にてプロスタグランジンの働きを抑制する能力を持ちます。

またカフェインはアデノシン受容体遮断薬としてアデノシンの働きを抑制させ、cAMPの活性を失うことなく維持しようとします。

先程プロスタグランジンのところで述べたように非ステロイド性抗炎症薬であるアスピリンもプロスタグランジンの働きを抑制します。これはシクロオキシゲナーゼの活性を抑制したことによるものです。プロスタグランジン抑制の働きにより、結果としてGiプロテインの働きは抑制されます。つまり、エフェドリンの働きを活性化することになると考えられます。

このようにエフェドリン、カフェイン、アスピリンはそれぞれがβ作用、セカンドメッセンジャーシステムに作用するので、結果として相互に脂肪分解に作用し、しばしばECAスタックとして使用されてきたわけです。


結論

今回はエフェドリン、カフェイン、アスピリンなどの脂肪分解の効果について述べてきましたが、副作用として食欲不振、不眠、動揺、血圧の上昇、脈拍の上昇、GIの緩慢、不安、薬物使用中断による禁断症候群(欝や神経質)などがあります。

また長期投与、短期投与によりこれらの薬物への感受性が低下し、薬物の効果が低下したり(耐性またはタキフィラキシー)、その薬物と類似した薬物の効果も減弱します(交差耐性)。

以上、脂肪分解について色々述べてきましたが、少なくとも筋力、筋肉量、シェイプなどを保ったまま、脂肪だけを減らそうと思ったらどのようなものを、どれだけ食べたら良いか、食欲をどのようにコントロールするかだけではなく、どのように脂肪合成メカニズムを抑制し、脂肪分解のメカニズムを促進させるかを考えることが合理的であるといえそうです。

β作用、セカンドメッセンジャーシステムは脂肪分解において重要な意味を持つものです。エフェドリンなどは様々副作用を持ちますが、シネフリン、エピガロカテキン、オクトパミンなどβ3受容体だけをマイルドに刺激したり、α受容体拮抗作用のあるサプリメント、ハーブもあります。

耐性、交差耐性を避けるためのサイクリングの仕方、β3受容体をターゲットとしたサプリメント、ハーブについてはまた近いうちにサプリメントの項にでもひとつひとつ取り上げていくことにしましょう。


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