●糖化について、その1
■Toxic AGEs (TAGE) 病因説からみた生活習慣病予防の新戦略?食事性AGEsおよび糖毒性の真実?
私達のこれまでの糖化蛋白質に関する研究より,ヒトの体内では色々な経路から様々な終末糖化産物(advanced glycation end-products, AGEs)が生成してくることが明らかになっている(図1)。
なかでも【ブドウ糖や果糖の代謝中間体であるグリセルアルデヒドに由来するAGEs(Glycer-AGEs)は,他の経路から生成してくる様々なAGEsと異なって,非常に強い細胞障害性を示すことから,他のAGEsと区別する意味合いで,toxic AGEs(TAGE)という概念を提唱している。】
TAGEはAGEs受容体のRAGEを介して,糖尿病血管合併症の発症・進展に強く関わっていることを解明してきた。
最近では,心血管病,非アルコール性脂肪肝炎,アルツハイマー病,がん,不妊症などの多様な疾患にも関与することが示されており,世界に先駆けて生活習慣病の発症・進展における“TAGE病因説”を提唱した(図2)。
■TAGEが体内で生成/蓄積してくると様々な生活習慣病を発症・進展することが明らかになってきているが,体内でのTAGEの生成/蓄積は私達の日々の食生活に密接に関連していることが分かってきた。
すなわち【私達が毎日食べているご飯やパン,麺類などの主食の他,飲み物やお菓子などに沢山含まれている果糖ブドウ糖液糖(HFCS)/砂糖などの糖類の過剰摂取や,飲食品の加熱調理加工の過程で産生される食事性AGEs(主に,ブドウ糖や果糖由来AGEs)の摂取過多によって,体内でTAGEが生成/蓄積されることが明らかになりつつある。】
■市販の飲食品には,TAGEの生成/蓄積の大きな要因となる糖分が多量に含まれているが,アメリカ心臓協会AHAや世界保健機関WHOは「健康な生活の維持のため1日の糖分(HFCS/砂糖)摂取量を25 g以下に抑えるべきである」とするガイドラインを発表している。
そこで,飲料中の糖質含有量を測定したところ,上記の基準値を超すものが半数近くに達することが明らかになった(図3)。
また,これらの飲料の習慣的な摂取は肥満や糖尿病のリスクを高めることから,WHOは2016年11月に「糖分を多く含んだ飲料に課税するよう」各国に呼びかけを行なった。
■これらの、市販の飲料は多量の糖分を含む他,製造加工の段階で糖化反応を起こして色々なAGEs,特にブドウ糖由来のGlu-AGEsを沢山含んでいることが明らかになってきた(図4)。
【AGEs含有量の多かった飲料としては,乳酸菌飲料,炭酸飲料,果汁入り飲料,スポーツドリンク,果実ミックスジュースなど,特に成分に蛋白質含有量の多い脱脂粉乳とHFCSを含む乳酸菌飲料に多くのGlu-AGEsが含まれていたが,これは見た目や味を美味しくするため,あえてAGEsを作った後に乳酸菌を培養している製品に見られた。
実際に,高AGEs含有乳酸菌飲料を正常ラットに投与すると,肝臓内でGlu-AGEsの蓄積をきたすのみならず,飲料中には含まれていないTAGEの生成/蓄積を引き起こす他,RAGEの発現量を増大させてTAGEの作用を増強させることが明らかになっている。】
【一方,食品類では食品分類法による菓子(スナック類),ドライフルーツ,ケーキ,穀物(そば),調理加工食品などでGlu-AGEs量が高く,特にリジン含量の多い大豆粉や小麦粉と糖類やドライフルーツを成分に含む「栄養機能食品」や「栄養調整食品」,「ドーナツ」などのスナック類に多量のGlu-AGEsが含まれていることが明らかになった(図5)。】
『Toxic AGEs (TAGE) 病因説からみた生活習慣病予防の新戦略?食事性AGEsおよび糖毒性の真実?』竹内正義
●糖化について、その2
■これらの結果より,生活習慣病の予防対策の一つとして,【糖分やカロリーだけでなく,加熱調理加工に伴って産生される飲食品中のAGEs量にも注意することが重要であることが分かってきた。】
実際に,腸管内で尿毒素を吸着除去する活性炭のクレメジンを慢性腎臓病患者さんに投与すると,投与後では飲食品中に多く含まれるGlu-AGEsの減少に伴って血中TAGEレベルも低下することが示されている。
■【加えて,血中TAGE量の変動は現代の生活習慣の特徴である過食,運動不足,糖類(HFCS/砂糖)の過剰摂取,食事性AGEsの摂取過多が引き金となって生じるメタボリックシンドロームやインスリン抵抗性,食後高血糖,脂質代謝異常,高血圧症などと強く関連していることが明らかになっている。】
私達が提唱している“TAGE病因説”は,種々の疾患の予防から病気の発症・進展に強く関わっていることが明らかになってきており,また血中TAGEレベルの評価は生活習慣病の予防のみならず,早期診断や治療の有効性を評価する有用なバイオマーカーとしての可能性も秘めているものと思われる(図6)。
■【この食習慣の特徴(ブドウ糖/果糖/AGEs高含有飲食品の過剰摂取)が,体内でのTAGEの生成/蓄積を促進し,生活習慣病の発症・進展に強く関与することから,生体内でのTAGEの生成/蓄積を抑えることが,未病や老化の促進も含めた生活習慣病予防対策の新たな概念を提示するものと思われる。】
<TAGE関連総説>
1)生活習慣病の発症・進展におけるToxic AGEs (TAGE)-RAGE系の関与:?新たな治療戦略?.金医大誌 37: 141-161 (2012)
http://www.kanazawa-med.ac.jp/koho/sousetsu_takeuchi.pdf
2)生活習慣病の発症・進展におけるToxic AGEs (TAGE) の関与:?新たな予防戦略? ?食事性AGEsおよび糖毒性の真実?.金医大誌 40 : 95-103 (2015)
http://www.kanazawa-med.ac.jp/koho/tage.pdf
3)Serum levels of toxic AGEs (TAGE) may be a promising novel biomarker for the onset/progression of lifestyle-related diseases. Diagnostics 6: E23 (2016)
http://www.mdpi.com/2075-4418/6/2/23
『Toxic AGEs (TAGE) 病因説からみた生活習慣病予防の新戦略?食事性AGEsおよび糖毒性の真実?』竹内正義
http://hiac.or.jp/cluster2/vsc_004
●糖化について、その3
■皮膚の糖化と老化
真皮中の主成分であるコラーゲンやエラスチンなどは、半減期が長いため糖化を受けやすい。
通常、コラーゲンやエラスチンは組織中の線維形成過程においてリジンやヒドロキシリジン残基を介して線維化架橋を形成する。
しかし皮膚組織で糖化が進行して蛋白のリジン残基にCML(カルボキシメチルリジン)が生成すると、蛋白のリジン残基では架橋形成が阻害される。このため糖化は皮膚の線維組織の安定性に大きな影響を及ぼす。
日光弾力線維症(solar elastosis)は日光露光部の真皮に異常エラスチン線維が蓄積する状態を指す。これは紫外線に長期間暴露されたことによる顔面エラスチンの糖化が原因と考えられている。
日光弾力線維症の状態は 30〜40 歳以降の健常者において、程度の違いこそあるものの誰にでも起こり、顔面のシワやタルミ形成に関与している。
健常者の顔面皮膚を抗CML抗体で染色すると、弾性繊維には 30〜40 歳代からCMLの蓄積が見られ、高齢になるとエラスチン線維全体に蓄積が見られるようになる(図2)。
CML化したエラスチンは好中球エラスターゼによって分解されにくく、凝集能の亢進、線維径の増加、弾性率や伸長率の低下を起こす。このためエラスチンの糖化は皮膚老化の原因となる。
■一方、皮膚では比較的ターンオーバー期間の短い表皮にも AGEs の蓄積が見られる。表皮に含まれるケラチン10 には CML が蓄積する(図3)。
■さらに皮膚最外層に位置する角層中にも CML の蓄積が見られる。 CML の蓄積量が多い角層は肌のキメが低下している(図4)。
さらに角層CML の蓄積が皮膚表面の溝の等方性低下、皮膚表面の算術的粗さ指数の低下に関連することから、角層中の CML 蓄積は老け顔への変化に関与していると考えられている。
また角層中CML の蓄積量の増加が皮膚弾力性の低下と関連すると共に、皮膚中蛍光性AGEs の蓄積量とも相関性を示す。
『糖化ストレスと皮膚老化』より
http://ebn.arkray.co.jp/discip…/glycation-stress/stress-07/…
●糖化について、その4
■抗糖化素材
【食後高血糖の抑制は糖化ストレス対策のひとつである。このため食事の糖吸収を穏やかにする作用や炭水化物を少糖から単糖へ分解する消化酵素阻害作用を有する素材は抗糖化素材になる。】
既に数多くの市販食品に配合されている水溶性食物繊維である「難消化性デキストリン(製品名:ファーバーソル)」(松谷化学)は食事の糖吸収を穏やかにして、食後血糖値の上昇を抑制する作用を有する。
また「グァバ葉ポリフェノール(製品名:グァバフェノン)」(備前化成)、豆鼓エキス(日本サプリメント)、「小麦アルブミン(製品名:小麦アルブミンNA−1)」(日清ファルマ)、L-アラビノース(ユニチカ)などは、消化液中のアミラーゼ、αグルコシダーゼによる糖質分解作用を阻害し、食後血糖値の上昇を抑制する作用を有する。
【また食酢(酢酸)やクエン酸などの有機酸は、摂食物の胃内滞留時間の延長による消化・吸収の遅延作用などを有することから、食前の摂取により食事の糖吸収を穏やかにすることができる。これらの素材は血糖値対策の特定保健用食品素材としても利用されている。】
■糖化反応中間体や AGEs の生成を抑制する素材としては数多くの食品、化粧品素材が開発された。
食品素材では「混合ハーブエキス(製品名:AGハーブMIX)」(アークレイ)、「紫菊花(製品名:えんめい楽)」(ユニアル)、「桜の花エキス」(オリザ油化)、「マンゴスチンエキス(製品名:マンゴスチンエキス、マンゴスチンアクア」(日本新薬)、「ヒシ果皮エキス(製品名:ヒシエキス)」(林兼産業)、「混合ハーブティーエキス(製品名:UNAHATAKEハーブエキス)」(アンチエイジングコミュニケーション)などがあり、複雑多経路な糖化反応を様々なポイントで阻害する作用を有する。
これらの素材は経口摂取により血中や皮膚中AGEs の生成・蓄積を抑制することが確認されている。
■化粧品原料では「マロニエエキス」「セイヨウオオバコエキス(製品名:アブソレージ)」(一丸ファルコス)、「バラエキス(製品名:紅香姫)」(ニチレイ)、「ツボクサエキス(製品名:TECA)」「Pterocarpus marsupium樹皮エキス(製品名:トリコラシル)」(マツモト交商)などがあり、皮膚蛋白の糖化抑制作用を有する。
■また化粧品に配合されている糖化反応抑制素材は、各メーカー独自で研究開発されたオリジナル素材である場合が多い。これらには「ハマナス抽出液」(三省製薬)、「アルサージ」(ロート製薬)、「シソエキス」(資生堂)などがある。糖化反応抑制素材は AGEs の生成を防ぎ糖化ストレスの予防的対策になると考えられる。
■一方、既に蓄積した AGEs に対する分解作用を期待する抗糖化素材もある。 2009年にポーラが発売を開始した化粧品B.Aザ クリームに配合されている同社のオリジナル素材「ヨモギ抽出エキス(製品名:YACエキス)」は、蛋白中の AGEs生成により形成した架橋構造を分解し修復する作用の可能性が示されている。
同様に「ルイボスエキス」「レンゲソウエキス」(ポーラ)にも同様の作用が確認されている。これらの化粧品素材はコラーゲンゲル上に生成させた AGEs を分解するとともに、これらを配合した化粧品を連続使用することで角層中の AGEs の減少が報告されている。
また化粧品原料「シャクヤクエキス(製品名:ファルコレックス シャクヤク)」(一丸ファルコス)にも同様の作用が確認されている。 AGEs架橋分解作用は茶、ハーブ、野菜などの食品素材でも報告されている。
ザクロ果実中には AGEs架橋分解作用が確認されており、エラジタンニン類のtrihydroxybenzene 構造の関与が報告されている(図2)。しかしヒトが経口摂取した場合の作用については不明である。 AGEs架橋分解作用は既に蓄積した AGEs に対する分解・排泄作用として期待されるため、今後の糖化ストレス対策として期待される。
『糖化ストレス対策と課題』http://ebn.arkray.co.jp/discip…/glycation-stress/stress-16/…
『OPH(酸化蛋白質分解酵素)のAGEs分解活性増強剤』
https://astamuse.com/ja/published/JP/No/2015224202
その後、彼らは糖尿病でない健康なボランティアを用いて62種類の食品を50 g摂取したときと同量のブドウ糖摂取したときの食後の血糖曲線下面積(area under the glucose response curve:AUC)を相対比較することによって、食品のグリセミックインデックス(glycemic index:GI)を求めて表示した。
以降、食品のGIは臨床現場において糖尿病やメタボリックシンドロームの食事指導における有効な情報の一つとして利用されている。
【一方、GIは糖質量を一定にして摂取した場合の糖質の「質」について血糖値への影響を示したものであるが、糖質を摂取する「量」によっても血糖値への影響が異なる。】
【このためSalmeronらは1回の食事で摂取される糖質の「質」と「量」を勘案した指標として、グリセミックロード(glycemic load: GL)を考案した。GLは食品の糖質量の割合を%で示し、その割合を食品のGIに乗じた値を算出する。】
■一般にGI値70以上が高GI食品、56?69が中GI食品、55以下が低GI食品とされ、低GI食品を摂取したときは、高GI食品摂取時と比べてAUCが小さいため、食後血糖値の上昇が穏やかになることが期待される。
【GI値は食品中の炭水化物量、精製度、食物繊維量、脂質量、蛋白量、加工度などによって異なる。また、本来は炭水化物50 gを摂取した際の血糖値上昇の度合いを、同量のブドウ糖(グルコース)を基準食として100とした場合の相対値で表した指標である。
しかしGI値として示されている情報には、基準食としている食品の種類(米飯、パンなど)や糖質量が異なるものがあるので注意が必要である。】
日本では日本Glycemic Index研究会(日本GI研究会)が包装米飯147 g(糖質50 g相当)を基準食とするプロトコル(統一手法)の実施を推奨している。
■また食品に食物繊維を添加することで食後血糖値の上昇を穏やかにすることができる。水溶性食物繊維である難消化性デキストリンは、炭水化物や単糖類と一緒に摂取すると水分で膨らみ、胃から腸への排出スピードを遅らせ、小腸で粘りのあるゲル状となって食物の拡散を妨げ、分解酵素が食物と接触しにくくなることで糖質の消化吸収を遅らせ、食後血糖値の上昇を抑制する。
難消化性デキストリンを配合した食品は、食後の血糖値の上昇を抑制する効果が期待される食品素材として、特定保健用食品等に利用されている。
■一方、食事における食品の摂取順序によっても食後血糖値の上昇レベルは変わる。200 gの米飯と60 gの野菜(サラダ)の両方を摂取する際、野菜を米飯よりも先に摂取した方が血糖値の上昇およびインスリンの分泌が穏やかになることが報告されている。
この結果の公表がきっかけになり、食べる順番に基づく健康法が注目されている。さらに食べる順番によらず、野菜、温泉たまご等の副菜をうどんや米飯に添えて同時に摂取することでも食後高血糖を抑制できることも報告されている。
■近年、血糖値の上昇に関与する食事中の炭水化物自体の摂取量を減らす糖質制限食が話題になっている。炭水化物は重要な栄養素の一つでもあり、極端な糖質制限が死亡リスクを高めるとの調査結果も出ているので注意が必要である。
『食後血糖値の上がりにくい食事』
http://ebn.arkray.co.jp/discipl…/glycation-stress/stress-12…
『Glycemic Indexes and Glycemic Loads for Common Foods』
https://nutritiondata.self.com/topics/glycemic-index
つづく
●食べ合わせ、順番、食べる量、タイミング(その前後に運動するか否か)など色々あるけど、とりあえず低GI&低GLの食品は好ましい。