●眼精疲労について、その1
■VDT(visual
display terminals)と眼精疲労
■はじめに
【近年の情報化社会においてコンピューターの使用は,職場のみでなく一般家庭においても不可欠のものとなってきている。しかしその普及に伴い,作業による眼の疲れ・視力低下・肩こり・精神的疲労などの不定愁訴を訴える患者が増加している。
これらの諸症状は,VDT
症候群あるいはテクノストレス症候群とよばれている。】
【コンピューターの端末において,情報の入出力を視認するための機器を
visual display
terminals(VDT)と呼び,この作業のことを
VDT 作業という。この
VDT 作業による健康障害の主たるものが眼精疲労である。】
眼疲労と眼精疲労ある程度以上の視作業の結果として,その作業の能率の低下する現象を疲労現象といいこの場合に眼局所に生ずる自覚的・他覚的な種々の症状とともに一定の休養後に軽減または消失するものを疲労症状という。
【作業量と疲労が釣り合う生理的な状態を,眼疲労(eye
strain)といい,作業量に比較して疲労状態が強く釣り合いがとれない病的な状態を眼精疲労(asthenopia)というと定義されている。】
このように“精”の一文字が有るのと無いのとで,言葉の定義としては大きな隔たりがでてくるが,どこまでが生理的な疲労でどこからが病的な疲労と明確に規定することは困難で,この2つの用語は現在かなり混乱して使用されている。
■眼精疲労の症状
【眼精疲労の自覚症状として,遠見および近見時の視力低下,頭痛・眼痛,視野狭窄,充血・熱感・流涙,乾燥感・異物感,めまい・肩こり・不眠などがある。
他覚所見としては,近視化,調節力の低下,眼圧上昇,角膜表面温度の上昇,涙液分泌低下などが認められる。
これらのうち VDT
作業による眼精疲労の主体になるものは調節力の低下で,長期的には近視化と眼圧上昇(緑内障)が問題になると考えられている。】
■眼球の構造・調節の仕組み・眼圧について
まず簡単に,眼球の構造・調節の仕組み・眼圧について述べておく。
図1は,眼球の断面図である。光は角膜,水晶体,硝子体を透って網膜に達し,その光の信号が視神経から脳に伝わって物が見えるようになっている。図2は,調節の仕組みを現わした図である。
調整は,近くを見る時に水晶体が厚みを増して眼球全体の屈折力が増すことで,近くに焦点を合わせる機能のことをいう。虫メガネで近くの物を見る時には虫メガネを前後に動かして焦点を合わせるが,水晶体は眼球の中で前後に動くことは出来ないために,厚さを変化させることによって焦点を合わせる様になっている。
水晶体は,毛様体から毛様小帯という蜘蛛の糸のような線維で支持されており,毛様体の中には毛様筋という輪状の筋肉がある。この図は断面図であるが眼を正面から見ると,毛様筋は角膜の縁に沿ってちょうど輪ゴムのような形になっている。
近くを見る時には,毛様体中にある輪状筋が緊張して輪状筋の直径が小さくなる。すると毛様小帯が緩み,水晶体は自らの弾力性で厚みを増して屈折力が増加する。
逆に遠くを見る時には,輪状筋が弛緩して輪状筋の直径が大きくなり毛様小帯が張り,水晶体を扁平に伸ばすことにより屈折力が減少する。
【VDT
作業者では,遠くを見ている状態から近くを見る運動よりも,近くを見ている状態から遠くを見る運動が緩慢になることが明らかになっている。言い換えれば,輪状筋の緊張よりも輪状筋の弛緩に時間がかかるようになる。】
【そして,輪状筋が常に緊張した状態になり弛緩が出来なくなると水晶体の屈折力は増加したままになり,調節痙攣や近視化が起こると考えられている。】
図3は,房水の循環と眼圧を現わした図である。眼球の無血管組織である角膜・水晶体・硝子体は,血液の代わりに房水という透明な液体で栄養されている。房水は毛様体で産生され,隅角にある線維柱帯を通って眼外に排出される。
この線維柱帯は,毛様体の輪状筋のすぐ近くにある。このため,輪状筋の緊張が持続すると線維柱帯の房水流出量を低下させ眼圧が上昇すると考えられている。
『VDT(visual
display terminals)と眼精疲労』矢野雅彦
●眼精疲労について、その2
■眼精疲労の原因
眼精疲労は従来,眼疾患が原因となるものと眼疾患が認められない精神的なものの2つの原因に分類されていた。
眼疾患が原因となるものはさらに4つに分類され,
・遠視・老視・調節衰弱などによる調節性眼精疲労
・斜位や輻輳異常による筋性眼精疲労
・結膜炎・角膜炎・緑内障による症候性眼精疲労
・不同視による不等像性眼精疲労
で,これらには眼科的他覚症状が認められる。
それ以外の明確な眼疾患の認められないものは除外診断的に神経性眼精疲労とされ,ある意味で
籠的な診断になっていた。
【しかし近年,眼精疲労の原因が眼そのもののみでは無く,内外の環境や心理的問題にもあることが考慮されるようになってきた。
人間は情報の8割を視覚から得ているといわれており,眼疾患では失明に対する恐怖感があるために疾患の発生に心理的因子が大きく影響すると考えられている。】
心身症とは,身体疾患のなかでその発症や経過に心理社会的因子が密接に関係し,基質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。眼科疾患としては,中心性漿液性網脈絡膜症,原発閉塞隅角緑内障,ヒステリー,眼精疲労などがある。
【中心性漿液性網脈絡膜症は,中年男性の片眼に好発し過労や精神的ストレスが原因になるといわれている。原発閉塞隅角緑内障の発作は,過労や精神的ショックにより誘発されることが古くから知られている。
またヒステリー(近年は心因性視力障害と呼ばれることが多い)では,視力低下や環状視野・らせん状視野などが見られる。】
【眼精疲労もまたこのような心身症の一つと考えられるようになってきている。また
VDT作業による眼精疲労の原因としてVDT作業特有の外環境要因がある。】
画面の問題として,第1にCRTが透過光であり,われわれが通常見ている反射光と異なること,第2に画面の光が単一の波長分布であること,第3に光じん現象,これは画面中のドットによるにじみで,ピントをあわせるため調節を強く働かせる必要がある。
第4に画面上への外光反射(グレア)は,解像度の低下を起こす。ただしこれらの問題は,ディスプレイの進歩により次第に解決されつつある。
【さらに,照明条件,温度,湿度,騒音,換気,作業時間・内容など,職場環境も眼精疲労の原因となり,VDT作業による眼精疲労の発生には,特異な環境因子との関連が深いと考えられている。】
『VDT(visual
display terminals)と眼精疲労』矢野雅彦
●眼精疲労について、その3
■眼精疲労の診断
【診断には眼科医としてまず視器に関する要因を念頭におき,視力・屈折,調節機能,眼位,立体視,輻湊,細隙灯,眼底,眼圧,視野検査などを行い,循環器・代謝・消化器などの全身疾患の疑いがあればその検査も行う。
これと平行して心理学的検査も行うよう努力する。この際に充分な問診を行なうことが重要で,年齢,性,服装,話し振り,態度,顔の表情の観察は大切である。】
場合によっては精神科への紹介も必要になるが,患者の話をよく聞いて充分コミュニケーションがとれた状態で紹介しないと,患者は精神科の受診を拒否することがあるので注意が必要である。
■眼精疲労の治療
治療としては,視器に関する原因があるものには眼科的治療を行なう。屈折・調節異常のある症例では視力の矯正を行う。
【VDT作業においてはディスプレイとキーボードの関係から作業対象までの距離が,約50〜60cmに限定されるため,眼科で通常測定する5mや30cmでの視力に加えてこの距離で,0.6以上の矯正視力が必要とされる。】
【また毛様体筋を賦活するシアノコバラミン,毛様体筋の緊張をとるトロピカミドの点眼や,毛様体筋を弛緩させる塩酸エペリゾンの内服,神経組織の増生や機能維持に有効なメコバラミンの内服なども有効である】。
全身疾患や精神科的疾患がある場合は,その治療を行う。職場作業環境の改善や
VDT 検診の実施も重要である。
【VDT作業基準として作業時間は1日4時間以内,連続作業時間1時間以内,作業前の検診で斜視や片眼失明者などの両眼視が困難な症例や緑内障や高眼圧の既往がある者を除外,高齢者に対して作業用眼鏡の装用指導などが必要とされている。】
■まとめ
【眼精疲労は,視器要因,心的要因,環境要因の3つが関与しあって発生すると考えられる。
VDT
作業の眼精疲労の主体は調節力の低下で,長期的には近視化,緑内障が問題になる。治療には,職場作業環境の改善や
VDT検診の実施が有効である。】
『VDT(visual
display terminals)と眼精疲労』矢野雅彦
つづく
●仕事でパソコンを使う人であれば、1日4時間以内,連続作業時間1時間以内、というのはすぐに超えてしまうと思いますので、気をつけられる範囲で気を付けて、後は
・蒸しタオル(タオルを水で濡らしてレンジでチンするだけ!)
・点眼薬
・首、肩周辺のマッサージや血流促進クリームの塗布
・ビタミンB群の摂取
など行ってからトレーニングに入ってみてはいかがでしょうか?
めちゃくちゃ詰まっている人は見違えるぐらいパフォーマンスが上がるかも?