STRATEGIC TRAINING SYSTEM

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●自律神経について、その1(自律神経系の概要)

■自律神経系は全身に分布しており、血管、胃、腸管、肝臓、腎臓、膀胱、性器、肺、瞳孔、心臓、汗腺、唾液腺、消化腺などの内臓を支配している。

自律神経系は、以下の2つに分けられる。...
・交感神経系
・副交感神経系

自律神経系は、体内や体外の環境に関する情報を受け取り、体内プロセスを制御する。機能を刺激(促進)するには主に交感神経系、機能を抑制するには主に副交感神経系が使われる。

自律神経系の1本の経路には2つの神経細胞が関与している。一方は脳幹または脊髄に存在し、もう一方は自律神経節と呼ばれる神経細胞の集まりの中に存在し、この2つは神経線維によって連結されている。

神経節から伸びる神経線維は内臓につながっている。交感神経系の神経節の大半は、脊髄のすぐ外の左右両側に位置している。副交感神経系の神経節は、それぞれ支配する内臓の付近または内部に存在する。

■自律神経系は、以下のような体内プロセスを制御している。

血圧
心拍数と脈拍数
体温
消化
代謝(そのため体重に影響を与える)
水分と電解質(ナトリウムやカルシウムなど)のバランス
体液(唾液、汗、涙)の分泌
排尿
排便
性的反応

多くの臓器は、交感神経系と副交感神経系のどちらか一方によって主に制御されているが、1つの臓器に対して両方の神経系がそれぞれ反対の作用を及ぼしている場合もある。

例えば、交感神経系は血圧を上昇させるが、副交感神経系は血圧を低下させる。全体として、2つの神経系が協調して機能することで、体は様々な状況に対して適切に反応できるようになっている。

■交感神経

ストレスの多い状況や緊急事態に際して体の状態を整える(闘争・逃走反応)。

そのため交感神経系は、心拍数を増やし、心臓の収縮力を高め、呼吸がしやすくなるように気道を広げる。これにより、蓄えられたエネルギーが体から放出され、筋肉に大きな力が入るようになる。

この神経系はまた、手のひらの発汗、瞳孔の散大、体毛の逆立ちなども引き起こす。一方で、緊急時にあまり重要でない機能(消化や排尿など)を鈍らせる。

■副交感神経

日常的な状況下で体内プロセスを制御する。

副交感神経系には一般に、エネルギーを温存し、体を回復させる役割がある。副交感神経系は、心拍数を減らし、血圧を低下させる。

また、消化管を刺激して、食べものの消化や不要物の排泄を促す。食べものから吸収されたエネルギーは、組織の修復や形成に利用される。

https://www.msdmanuals.com/…/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7…





●自律神経について、その2(リラクゼーションと運動療法)

■リラクゼーションを目的とした運動療法

・自律神経への直接的アプローチ

自律神経の簡易的な評価指標としてバイタルサインがある。自律神経に直接的に働きかける方法とは、バイタルサインを意識的に沈静化させることによって副交感神経の活性化を計る。

代表的なものには呼吸がある。安静時呼吸から呼気を長くして、呼吸数を減らしていくことによって副交感神経の活動を促す。

また腹式呼吸は、呼吸数低下、心拍数低下、血圧低下によって副交感神経の活性化、筋緊張緩和により柔軟性の向上によるリラックス効果が報告されている。

・自律神経への間接的アプローチ

体性神経系を介して間接的に自律神経にアプローチする方法は、体幹、四肢の効果期(骨格筋や関節)から体性神経系からの求心性信号を減弱させ、中枢神経の興奮を抑えることを目的としている。

その興奮の抑制は脳幹部の機能を調整し、副交感神経優位な状態への導き、交感神経の緊張を緩和していく。

代表的なものにはストレッチがある。ストレッチによって大脳皮質活動、心臓自律神経系活動が弛緩状態となり、それらの作用により心拍数や血圧低下が認められている。

他にも、漸進性筋弛緩法、スリングセラピー、シンクロサイザーなどがある。

■日常生活でストレッサーが存在し続けている限りは、上記のリラクゼーション効果は一時的なものであり、その効果は数分から数時間しか持続しない。

自律神経を自己コントロールできる、心身環境づくりが、根本的なリラクゼーションであり、そのためには身体的側面、心理的側面、両面からストレス耐性をつけていくことが重要である。

■その両面において効果があると思われるものに以下の方法がある。

@身体的アプローチ

体幹関節機能障害を改善させるアプローチは、副交感神経を活性させることが有効である。(体幹関節とは、仙腸関節、椎体関節、肋椎関節を指す)

・仙腸関節運動
背臥位膝抱え運動、四股

・椎体関節運動
体幹回旋運動、四股捻転

・肋椎関節運動
メディカルスティックの上に背臥位になり、肋椎関節の運動を誘発することで、体幹背部筋の緊張緩和、胸椎、胸郭運動を促すリラックス方法。※棘突起に圧痛がある場合は行ってはいけない。

A心理的アプローチ

心理面に直接アプローチするには専門的な知識や技術が必要となるため難しい。

自律神経の機能回復には、心機能と運動耐容能が密接に関わっていることから、心機能、運動耐容能の改善を目的としたリコンディショニングを行う。

その場合の方法としては、心拍数の最高値を決定し、その範囲内で運動負荷を増加させる定心拍数の自転車エルゴメーターによる運動を実施する。運動負荷は、※AT値とする。

※AT値(運動の強さを増していくとき、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、血液中の乳酸が急激に増加し始める強度の値。一般的な計算式は、「AT心拍数 = {(220 ? 年齢) ? 安静時心拍数} × 0.75 + (安静時心拍数)」←あくまで目安)

■留意点

リラクゼーションを目的とした運動療法においては交感神経を過緊張させないことが大原則である。

・運動療法の実施、インターバル中は呼吸を併用する。

・運動中の過度なリラックスへの意識は心理的緊張を生み、余計に交感神経を刺激してしまう可能性があるため運動に集中する。

・リラクゼーションによるリラックス効果は、実施中より実施後の安静時に示すという報告もある。

『リラクセーションと運動療法 理学療法 28巻8号 2011年8月』


●自律神経について、その3(自律神経とウエイトトレーニング@)

■高強度レジスタンストレーニング前後の血行動態

・臥位下肢伸展挙上にて最大随意筋力の80%の負荷で 10 回実施する運動課題を設定し、運動前後の循環動態を分析し、運動前後の一回拍出量、末梢血管抵抗、圧受容器反射感受性を比較検討した。

・佐藤らは、エルゴメータを用いた最大負荷では、負荷後も副交感神経の活性は検出されないとしている。このことから高強度運動負荷では,副交感神経の再興奮は得られにくく、本研究でのHFnu(副交感神経活動の指標)の反応は、佐藤らの報告と類似したものであったといえる。

・【高強度レジスタンストレーニング後では、TPR の低下による末梢血管の弛緩作用と循環血液量の増加が認められたが、交感神経活動亢進の持続もみられた。】

高齢者や心疾患・代謝疾患等の対象の場合には、レジスタンストレーニングような末梢の運動では、末梢血管弛緩作用を維持し、かつ交感神経活動の亢進を持続させない運動負荷強度の設定が必要であると考えられる。

そのためには、筋収縮様式、運動負荷、筋収縮の休息時間の考慮、運動効果の持続時間、そして長期的効果についての今後の検討が、課題として挙げられる。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/29/5/29_689/_pdf

■高強度レジスタンスエクササイズ前後の心拍数、収縮期血圧、自律神経活動

・運動習慣の無い健常人における健常男性11例とした。

・臥位伸展挙上を用いて1RM の80%の負荷で10 回を目標に施行した。運動負荷前後の収縮期血圧,自律神経活動を分析し、比較検討した。

・収縮期血圧は挙上回数をますほどに上昇する傾向を示し、LF/HF 値は運動により安静時より有意に増加し,運動終了後5分が経過してもやや亢進状態が継続した。

・健常者における高強度のレジスタンスエクササイズ後の交感神経活動の結果から、

【高強度のレジスタンスエクササイズを心疾患患者に実施する場合、心疾患患者の安静時から持続的な交感神経活動の亢進状態に加え、運動終了後の交感神経の持続的な亢進状態も加わる可能性があるため、留意する必要があると考えられた。】

また血圧上昇と交感神経活動の上昇点に一致した。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/25/6/25_6_899/_pdf

■交感神経機能に及ぼすレジスタンストレーニングの影響に関する研究

・非利き腕を用い10秒間の静的ハンドグリップを最大努力で10回、3セットを週3回、4週間実施した。最大ハンドグリップ張力はトレーニング側だけでなく非トレーニング側も増加した。

・高い運動努力を必要とするレジスタンス運動は活動筋反射に対する効果より※セントラルコマンドに対する効果が大きく、これが交感神経調節に影響したと考えられる。

【これらの結果から、前腕筋のような小筋群の運動であっても大きな運動努力を発揮することでからだの機能を調節する自律交感神経活動に大きな効果を及ぼすことが明らかになった。】

※セントラルコマンドとは運動時の循環反応を示す概念。筋収縮を発現させる運動指令が高位の運動中枢から脊髄α運動ニューロンへと下行する際、それと平行して延髄の心血管中枢に連絡をもち、その経路を介して伝えられる情報をセントラルコマンドと呼んでいる。

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15500464/


●自律神経について、その4(自律神経とウエイトトレーニングA)

■レジスタンストレーニング後の水治療法(交代浴)が免疫機能と自律神経活動に及ぼす影響

・筋肥大を目的としたレジスタンストレーニングは唾液 SIgA 分泌速度を低下させること、交代浴はトレーニング後の唾液 SIgA 分泌速度の回復を促進することが示された。

・筋肥大を目的としたレジスタンストレーニングは唾液 SIgA 分泌速度を低下させることで感染症の罹患リスクを高める可能性があるが、交代浴はトレーニング後に唾液 SIgA の回復を促進する方法として有用であると考えられる。

先行研究において、唾液 SIgA は唾液腺への副交感神経刺激によって増加することが示唆されている(Carpenter et al., 1998, Proctor et al., 2000)。

本研究では、LnHF(副交感神経活動の指標として自然対数化した高周波成分(natural logarithm of high frequency component )を指標として各試行における副交感神経活動の変動を検討したところ、コントロール試行では、LnHF が運動前と比較して、試行直後に有意に低い値を示したのに対し、交代浴試行では、運動前と試行直後の LnHF に有意な差はみられず、試行直後には運動前の状態まで回復されていた。

【この結果は、交代浴が運動後の副交感神経活動の回復を促進したことを示している。従って、交代浴は、副交感神経活動を増加させたことによって、レジスタンストレーニング後の唾液 SIgA 分泌速度の回復を促進したと考えられる。】

■水温落差は副交感神経活動を促通する

・交代浴と温浴および交代浴と冷浴の相異はイオンチャンネル(温度受容体)の相異である。

温浴は43°C以下のTRPA4、冷浴は18°C以下のTRPA1と8°Cから28°CのTRPM8、交代浴はこのすべてに活動電位が起こる。

もう一つは温度幅である。温水41°Cと冷水15°Cではその差は26°C、体温を36°Cとすれば温水温度とは5°C、冷水温度とは21°Cの温度差がある。

この温度幅が交代浴の効果発現に寄与する。単温の温浴や冷浴より感覚神経の刺激性に優れる理由は、温浴の41°Cと冷浴の15°Cへの21°Cの急激な非侵害性の温度差が自律神経を刺激しHF成分変化を引き起こす。

また交代浴の体温上昇からは、温度差は視床下部の内因性発熱物質(IL1)を有意に発現させたことなる。

・【温度落差が自律神経活動に及ぼす影響は、単浴に比べ体温を上昇させること、副交感神経活動を一旦低下を惹起し、その後促通するという生理的作用に優れることがわかった。】

https://ci.nii.ac.jp/naid/130004579832


●自律神経について、その5(自律神経とウエイトトレーニングB)

■インターバルトレーニングにおける運動間の回復様式が代謝・自律神経活動に及ぼす影響に関する考察

・インターバルトレーニング(IT)は運動期(Ex)と回復期(Rec)が混合する運動様式であり、中等度の持久運動と比べて優れた身体機能の改善が報告されている。

心疾患患者においても同様の報告がなされているが、実際にITを心疾患患者に行う際には運動中・後の過剰な交感神経活動による心血管イベントなどのリスクを考慮した運動負荷強度と回復方法の設定が必要である。

【効率のよい回復とは交感神経活動の抑制と酸素負債の減少である。】

交感神経活動の亢進は運動時の代謝動態を変化させる。そのため、本研究では運動時の代謝動態の変化から過剰な交感神経活動を定義すると共に、同等の心拍出量を維持し、自律神経反応の異なるActive Cycling(AC)とPassive Cycling(PC)を用いて、効率の良い回復方法を4名の測定結果から考察する。

・【 ITにおける回復期のPCによる他動的な血流の促進が酸素負債と交感神経活動を減少させる手段としての有効性を示唆する傾向が示された。】

https://www.jstage.jst.go.jp/…/…/0/28_76_1/_article/-char/ja

■運動時の呼気延長呼吸が呼吸循環応答と自律神経活動に与える影響

・一般に、漸増負荷運動における自律神経活動の変化として、副交感神経活動は運動負荷の開始とともに速やかに抑制されるが、交感神経活動は強度に達するまでは変化を示さない。

強度以上となると副交感神経活動は著しく減弱し、交感神経活動は相対的に増加すると云われている。

しかし、本研究で示したように【中等度の強度までの運動では、適切な呼気延長の呼吸様式を実施することによって、副交感神経活動が賦活化し、上昇が抑制されて、換気効率が向上し、自覚的に楽な運動になると考えられる。】

以上から、

【強度以下の運動でも過剰な心循環応答を示す高齢者や低心機能患者 )を対象とした場合は,呼気延長の呼吸様式を導入することによって自然呼吸の運動より安全な運動が行えると考えられる。

https://www.jstage.jst.go.jp/…/3/57_3_315/_article/-char/ja/


●自律神経について、その6(自律神経とウエイトトレーニングC)

「筋トレが自律神経と脳内の内分泌系調節機能に作用する力には、科学的な裏付けがあります。ジョギングやエアロビクスなどでは1時間以上続けないと得られないレベルの活性化が、筋トレではわずか10分程度で起きることがわかっています。」

「筋トレによって自律神経のリズムが整い、交感神経と副交感神経がともに活性化すれば、ここぞというシーンで集中力を高め、リラックスしたいときにはくつろぐことができる。そんなメリハリのついた心身の状態が得られるのです。」

「筋トレは精神の安定にもよく、脳内に分泌されるドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンの状態を整えることが知られている。筋トレをすることで三つの分泌量が必要に応じて滑らかに流動し、セロトニンを基点としながら、上がったり下がったりする一番いい状態を、保つことができる。」(石井直方教授)

https://dot.asahi.com/print_image/index.html…

●結論

・ウエイトトレーニングの自律神経(特に交感神経)への働きは小筋群、短時間でも効果がある。勿論、大筋群までしっかりやればもっと効果はあるはず。

・インターバルトレーニングや、そこそこ強度の高い有酸素運動も自律神経の回復に効果がある。

(ウエイトトレーニングやインターバルトレーニングは交感神経優位な作業だけど、インターバル間の深呼吸や、ウォームアップ、ストレッチ、クールダウンなどの一連の作業(副交感神経優位含む)が、自律神経のコントロールに繋がっていくと思われる。)

・自律神経を整える目的では、インターバル中やアップセットなとでは、深呼吸や長く吐くことを意識したほうが交感神経の亢進を抑えることができる。

※高強度トレーニングにおいては、自律神経のバランスが難しいので、どこまで深呼吸を行うかは個々に調節が必要。

・トレーニングの強度がかなり高い場合は、トレーニング後も交感神経のスイッチが切れにくい状態となるので、トレーニング後のクールダウン、ストレッチ、風呂(交代浴)に浸かる、などをゆっくり行うと良いかもしれない。

※交代浴がない場合は、風呂(または温水)と冷水シャワーの組み合わせでも良い。

・心疾患などがある人は、通常でも交感神経優位なので、トレーニングでさらに交感神経優位になると、血圧が上がりすぎるかもしれないので注意が必要。