その結果、足趾運動能と片脚・両脚起立能、足趾把持筋力と足趾運動能に有意な相関関係を認めたことから、足趾把持機能は、閉鎖運動連鎖での地面に対する安定性と、情報入力収集機能を併せ持ち、それらが相まって身体の動的安定を保持させていると解釈している。
D足趾把持練習の効果は?(高齢者の転倒予防の可能性)
小林らは、足趾把持練習が高齢者の転倒予防潜在性を持つかどうかを明らかにすることを目的として、老人保健施設に入所者の高齢者に対して、10分間の足趾把持筋力強化練習を週3回、8週間実施した。
その結果、練習群において有意に重心動揺の総軌跡長・外周面積・X軸方向の最大振幅が改善した。これらのことより,足底メカノレセプターの賦活と,目と足の協調性の改善が要因であると考察している。
E足趾把持練習の効果は?(全身動作遂行能への効果)
宇佐波らは、健常若年成人に対して足趾把持筋力の増強練習を1日1回,週6回を4週間継続させ、膝・足関節粗大筋力と50 m全力疾走や垂直跳びといった動的全身運動に好結果を与えたと報告している。
足趾屈筋群の活動は、足・膝関節周囲筋の同時収縮を促通して、多関節機能向上に関与しており、足趾屈筋収縮は下肢の機能的連鎖運動における引き金であるとしている。
F足趾把持練習の効果は?(練習後の持続効果)
井原らは、健常成人に対して、動的姿勢制御練習の一部である足趾・足底練習を週3回、8週間行い、その結果、足趾把持筋力、重心移動距離、足関節底屈・背屈力、下肢誘導能、膝関節屈曲反応が改善し、反復横跳び・立ち幅跳びなどの動作遂行能においても改善が認められたと報告している。
これらのことより、足趾・足底練習によりメカノレセプターが賦活され、神経運動器協調を改善するとともに、足底筋群−腓腹筋−ハムストリングスの運動連鎖を誘発し、姿勢制御能が改善・促進されたためと考察している。
更に、練習中止3ヶ月後においても、大部分が維持されていることから、末梢効果器の機能増大のみならず、運動前野での新たな神経網の形成が考えられると述べている。
G足趾把持練習の効果は?(変形性膝関節患者への効果)
石橋らは、高齢者と変形性膝関節症患者に対して、足趾・足底練習を自宅での自主練習において6週間毎日行った結果、足趾把持筋力と下肢制動能が有意に増加した。
これらのことより、高齢者の転倒予防練習のみならず膝関節疾患の保存療法としても期待できると述べている。
H足趾把持練習の効果は?(足趾練習のみの効果)
木藤らは、足趾のみの練習の効果を明らかにすることを目的に、地域在住高齢者に対して、足趾のみの練習を1日2回、週3回以上、8週間行わせた。その結果、足趾運動機能、動的姿勢制御能、膝伸展筋力の向上が認められ、臨床の場面で足趾練習を積極的に行うべきであると述べている。
また足趾練習により前足部への荷重が促進し、重心位置が前方に移動され、高齢者の大腿骨頚部骨折の直接原因である後側方部転倒を予防できる可能性を示唆している。
『足趾の機能』加辺 憲人
理学療法科学 18(1):41-48,2003